Yagi Kahori Photography
私にはずっと気にかけている写真がありました。それはまだ今のように写真に興味を抱くずっと前にフィルムカメラで撮影したものでした。探しても探してもどうしてもフィルムを見つけられず、それでもファインダーを覗く先にある光景は鮮明に記憶しています。
十五年前の二月。尾道から広島へ向かう車中、窓際に座ると出窓に落書きがあるのを見つけました。子どもや学生の他愛ない文字のなかに「好きです」の四文字がありました。
その四文字は先端が鋭利なもので引っ掻いて書かれており、消すに消せないようでした。冬の曇天、白い夕暮れ。バレンタインデーをひかえた時季でもあり、妙に切ない気持ちになったことを覚えています。なんとなしに何枚か写真を撮りました。
今年の夏、デジタルカメラで撮影した写真を見返す機会がありました。サムネイルが並ぶモニターを眺めていると「おや?」と目につく写真が。そこには「好きです」の四文字がありました。
フィルムカメラで、と思っていた写真はデジタルカメラで撮られたものでした。そして画面には「好きです」の前にもう二文字ありました。
「まだ好きです」。「まだ」と刻まれた写真を見て、ふと思いました。「まだ好きですの写真、わたしまだ好きやなあ」と。
目の前にある光景をただ面白がって、見て、見ているだけではもったいないと感じられたときに撮った、そんな写真が沢山あります。たいていは暗くて黒くてブレるような撮り方してもお構いなしで、そしてほぼデジタル。
写真を撮り続けている、何度も何度もシャッターを切っている。そのなかでも「あれ今でも好きやな」と思う写真を掬い、並べてみました。
目的も意味も何もなく、例えば好きな言葉を無造作にならべメロディをつけたようなもの。今年はそんな写真をまとめています。戸越銀座で御覧いただけましたら嬉しいです。
八木香保里 写真展
たとえば好きな言葉を
無造作にならべ
メロディをつけたようなもの
2023年12月1日(金)- 12月13日(水)
10:00-20:00 木曜休
フォトカノン戸越銀座店
東京都品川区戸越2-1-3
@photokanon